ASD 自閉スペクトラム症 (20歳迄)
はじめに
近年、「自閉症スペクトラム(連続体)」仮説という考え方が議論されているが (Baron-Cohen, 1995;Frith, 1991; Wing, 1981)、この仮説では、自閉症とアスペルガー症候群は社会的・コミュニケーション障害の連続体(スペクトラム)上にあり、アスペルガー症候群は自閉症と健常者の中間的存在であるとされている。この仮説では、自閉性障害者と一般健常者は自閉症スペクトラム上での連続性が仮定されることから、自閉性障害の診断をカテゴリー的診断から量的診断へと転換することになるとともに、自閉性障害のアナログ研究も可能になる。また、自閉症スペクトラム仮説では、スペクトラムの一方の極 に純粋かつ典型的な自閉性障害として高機能自閉症が位置づけられることになる。
ところで、自閉性障害には知的障害が併存する割合が多く、従来の一般的な自閉症像は精神遅滞を伴った自閉症であったため、研究・教育的支援ともに、そのような自閉症像を前提としたアプローチが主流であった。特に研究においては、自閉性障害自体の症状の重篤度と併存する知的障害の重篤度を分離することが困難な場合が多いために、症状形成のメカニズムを検討する場合にも、症状として表れてい る障害が自閉性障害固有のものであるのか、知的障害による影響を含むものであるかの識別がむずかし い場合が多く、純粋な自閉症そのものの基底障害の判断やそのメカニズムを研究することには多くの困 難が伴っていた。しかし、自閉症スペクトラムという概念は、純粋な自閉性障害自体の程度の指標とい う意味を持っており、そのスペクトラム上の典型である高機能自閉症やアスペルガー症候群という知的 障害を伴わない自閉性障害の存在は、他の障害の影響を受けない自閉性障害そのものの問題を解明する 機会を提供するものと考えることができる。
この自閉症スペクトラム仮説の妥当性を検討するためには、高機能自閉症やアスペルガー症候群の児 童および成人が一般健常児・者に比べて明らかに高得点を示すような、自閉性障害の症状の特徴とされ る社会性・コミュニケーションなどに関する問題からなる尺度を構成し、その尺度、すなわち自閉症ス ペクトラム次元上に、健常な知能をもつ一般健常児・者もその自閉症傾向の程度にしたがって一定の分 布をするということを示すことが求められる。具体的には、健常な知能を持つ児童・成人を対象とした 自閉症スペクトラム上の個人差を測定できる尺度が必要である。
このような背景から、Baron-Cohen, Wheelwright, Skinner, Martin,& Clubley (2001) は、健常範囲 の知能を持つ成人の自閉症傾向(自閉症的特性)あるいはその幅広い表現型 (Bailey, Couteur, Gottesman, Bolton, Simonoff, Yuzda, & Rutter,1995) の程度を測定することを目的とした 「自閉症ス ペクトラム指数」 (Autism-Spectrum Quotient :以下 AQと表記) という尺度を開発した。Baron-Cohen et al. (2001) によれば、この尺度は、自閉性障害にあてはまるかどうかという概略的な診断に使用できるとともに、その障害の程度や、より精密な診断を行うべきかどうかといった臨床的スクリーニングに 使用できることに加えて、自閉症スペクトラム仮説にもとづいて一般健常者の自閉症傾向の個人差を測 定できるとされている。
AQ日本語版の標準化
若林・東條・Baron-Cohen・Wheelwright (印刷中) は、Baron-Cohen et al. (2001) のAQ にもとづ いて、AQ の日本語版を作成し標準化した。
具体的には、3 つの被験者群を対象としてAQ への回答を求めた。第1群は、成人のアスペルガー症 候群・高機能自閉症者群(以下AS/HFA 群と表記)57 名(平均年齢26.9 歳、範囲は18-57 歳)であっ た。これらの被験者は、全員DSM-IV にもとづいて精神科医等の臨床の専門家によって自閉症ないしは アスペルガー症候群という診断を受けた者である。なお、高機能自閉症とアスペルガー症候群の区別に ついては、診断上信頼できるデータがなかったために1つの集団として扱った。
第2群は、複数の企業から無作為に抽出された成人194 名(平均年齢33.6 歳、範囲は22-56 歳)で あった。彼らは、業種の異なる複数の企業に勤務する社会人であった。
第3群は、東京および千葉にある5つの大学に在籍する大学生1050 名(平均年齢20.3 歳、は18-41 歳)であった。
その結果、以下のことが明らかになった。
1) AS/HFA群と統制群の比較
各群のAQ の総合得点と下位得点を比較した結果、成人のAS/HFA 群は大学生群と社会人群よりも明 らかに得点が高くなっていた。また、下位尺度の得点について3つの被験者群間で比較を行ったところ、 成人のAS/HFA 群は社会人群・大学生群と比べてすべての下位尺度で得点が高くなっていた。
2) 性差
各群において性差を比較すると、大学生群では男性が女性よりも得点が高く、社会人でもその傾向が 認められた。一方、成人のAS/HFA 群では、被験者数(特に女性)が少ないこともあり、明確な性差は 認められなかった。
3) 再検査による信頼性
54 名の大学生に2ヶ月後に再度AQ に回答を求めた。その結果、各被験者の2回の検査の総合得点に は統計的な差が認められず、高い相関 (r=0.87) を示した。
4) 自己評定と親による評定による信頼性の検討
成人のAS/HFA 群のAQ への回答の信頼性を検討するために、32 組の本人の自己回答と親による本 人の評定結果を比較した。親の回答用AQ としては、項目の内容が本人にしか回答できない10 項目が 削除された40 項目から構成されたAQ が用意された。この40 項目版AQ への自己回答と親による回答の得点の差は平均2.1 点であり、両群の平均得点間には統計的な差は認められなかった。また、親によ る回答と成人のAS/HFA 群本人の40 項目のAQ での得点間の相関はr=0.71 であり、比較的高い相関を 示していた。これらのことから、成人のAS/HFA 群本人によるAQ への回答には一定の信頼性があるこ とが示唆された。
5) 項目反応率
項目ごとの得点とされる側への回答率を被験者群間で比較した結果、50 項目中2 項目(項目 23、29) だけが統制群の方が成人のAS/HFA 群の反応率を上回っていたが、他の48 項目はすべてAS/HFA 群の 方が明らかに高い反応率を示した。
6) 内的一貫性
日本語版AQ 全体の50 項目での信頼性を大学生のデータで算出した結果、尺度全体でCronbach の α係数は0.81 であった。
7) 臨床群と統制群のカットオフ(識別)ポイント
AQ の目的の一つは、自閉症スペクトラム上での個人差の測定であり、その概念から当然成人の AS/HFA 群の得点分布と健常(統制)群の得点分布が乖離することが予想される。そこで被験者群別得 点分布にもとづいて、成人のAS/HFA 群を健常(統制)群からもっともよく識別するAQ 上の得点を検 討した結果、33 点が識別点(カットオフ・ポイント)として妥当であると考えられた。すなわち、33 点以上には成人のAS/HFA 群の9 割近く(87.8%)が含まれるのに対し、健常群ではわずかに3% 弱(大 学生で2.8%、社会人で2.6%)がそこに含まれるのみであった。したがって、AQ の得点が33 点以上で あることが、自閉症スペクトラム上において病理的水準の自閉症傾向を持つことを意味すると考えられ た。このことはAQ の結果が診断的な手がかりの1つとなることを示すものであった。
8) AQ上の健常者の自閉症傾向の個人差
AQ は、一般健常成人がもつ自閉症傾向の個人差を測定するという目的も持っているが、大学生での 平均得点が20.7、SD が6.38 であり、平均±3SD がAQ の得点範囲内に含まれることから、一般的な心 理的個人差を測定する尺度として十分妥当なものであった。得点の分布状態は、ほぼ正規分布していた。 この結果は、健常成人のもつ自閉症傾向にも一定の個人差があるという自閉症スペクトラム仮説の妥当 性を支持するものであった。
9) 健常者に対するAQの診断的妥当性
健常者を対象にした場合でも、AQ が自閉症傾向の程度について診断的機能を持ちうるかを検討する ために、大学生群の被験者でAQ 得点上病理的水準とされる33 点以上となった被験者のうち面接に同 意した12 名に対してDSM-IV の自閉性障害の診断基準がいくつあてはまるかを判断した。その結果、 AQ で33 点以上であった12 名の大学生中7 名が高機能自閉症ないしはアスペルガー症候群の診断基準 にあてはまると判断された。また、12 人中11 人が高校卒業までに、孤立やいじめ、友達関係が苦手といった社会的コミュニケーション上の問題があったことを報告しており、健常者でもAQ で高得点をと る場合には、自閉症傾向の顕著さが適応上問題になりうることを示していた。
児童用AQについて
AQ は、以上のように簡易な自己評定尺度でありながら、自閉性障害のための診断補助や研究上の道 具として十分な機能を持つものであった。しかし、AQ は基本的に16 歳以上を対象としており、実際に 自閉性障害研究の中心的対象である幼児・児童を対象としたものではなかった。そこでBaron-Cohen, Hoekstra, Knickmeyer,& Wheelwright (in print) は、より年少の対象に実施可能な児童用AQ の作成 を試みた。尺度構成は基本的に成人用のAQ と同じであり、作成手順も同じである。成人用と児童用の 最も大きな違いは、成人用の回答形式が自己評定形式であったのに対して、児童用では対象の年齢によ る回答の信頼性の問題を考慮して対象の父母等の養育者による他者評定形式を取っていることである。
Baron-Cohen et al (in print) によるオリジナル研究では、AS/HFA 群52 名(平均年齢13.6 歳、範囲: 10.3-19.4 歳)、古典的自閉症(知的障害を伴う自閉症)群 79 名(平均年齢12.5 歳、範囲:9.8-16.0 歳)、 統制(健常児)群50 名(平均年齢13.6 歳、範囲:10.1-18.5 歳)の3群を対象として養育者による他 者評定にもとづく回答を比較し、AS/HFA 群と古典的自閉症群が健常児群に比べて総合得点と下位尺度 得点のすべてにおいて明らかに高得点であること、健常児群では性差(男性の方が高得点)があること などが報告されている。また、尺度自体としても、ほとんどすべての項目で臨床群と健常児群の反応率 が異なること、下位尺度の信頼性が0.66-0.88 と一定の水準に達していることなどが報告されている。
以上のように、児童用AQ は、自閉性障害の診断の補助および研究のための道具として、成人用と同 様に一定の有効性が示されている。
児童用AQ(日本語版)の作成
児童用AQ(日本語版)の作成にあたって、成人用AQ の場合と同様に、日本側の著者である若林・ 東條は、児童用AQ の原著者であるBaron-Cohen とWheelwright と協力し、児童用AQ として最終 的に標準化に使用されたものを日本語に翻訳し、著者らのグループでback translation を行うことによ って原版の項目と内容的に等価な日本語での項目を作成した。また、他者評定という回答形式のために、 質問項目について判断が難しい場合があることを考慮し、原版ではごく一部の項目にのみ添えられてい た項目判断のための手がかりや補助的確認方法を外部からの判断が困難な場合があると考えられる項目 のすべてについて加えた。さらに、他者評定ではどうしても判断できない場合があることが予備調査で 明らかになったことから、原版では四肢選択の強制選択形式であったものに「わからない(判断できな い)」という回答欄に加えた。
以上の修正を加えた上で、児童用AQ(日本語版)標準化用の質問紙を作成した。AQ 日本語版を構成 する項目は、下位尺度ごとに、社会的スキル(1, 11, 13, 15, 22, 36, 44, 45, 47, 48)、注意の切り替え (2, 4, 10, 16, 25, 32, 34, 37, 43, 46)、細部への注意 (5, 6, 9, 12, 19, 23, 28, 29, 30, 49)、 コミュニケーショ ン (7, 17, 18, 26, 27, 31, 33, 35, 38, 39)、想像力 (3, 8, 14, 20, 21, 24, 40, 41, 42, 50)となっている(質問項目の内容は、こちらを参照のこと)。
なお、今回の児童用AQ(日本語版)の標準化研究では、高機能自閉症児、他の発達障害児、健常児 等の被験者群を設定した上で比較検討を行う予定であるが、本報告書では、その予備的段階として AS/HFA 群と健常児群の基本データについて、報告する。
被験者
原版の研究では、対象の年齢範囲がかなり広く、一部の対象が成人用の対象と重複していたため、本 研究では、成人用との比較を考慮し、対象年齢を成人用の標準化研究と重複しない7~15 歳程度(小・ 中学生)とした。
臨床群は、小・中学生のアスペルガー症候群・高機能自閉症者群(以下AS/HFA 群)67 名(男性60 名、女性7 名;平均年齢11.0 歳)であった。なお、高機能自閉症とアスペルガー症候群の区別につい ては、診断上信頼できるデータがなかったために1つの集団として扱った。
統制群は、武蔵野東小学校および中学校に通学する児童で、特に障害等の問題が認められない健常児 331 名である。
データ収集の方法は、担任教諭を通じて各児童の保護者宛に研究の趣旨の説明とともに質問項目を印 刷した用紙を配布し、回収した。
児童用AQ(日本語版)の基本データ
上記の2つの被験児群に対して養育者にAQ への評定を求めて得た回答を集計し分析した結果、以下 のようなことが明らかになった。
1) AS/HFA群と統制群の比較
各群のAQ の総合得点と下位得点の平均点は表1に示したとおりである。AS/HFA 児群と健常児群に ついて、総合得点を比較した結果、AS/HFA 児群(平均29.0 点、標準偏差7.85)は健常児群(平均11.5 点、標準偏差6.23)よりも明らかに得点が高くなっていた。また、下位尺度の得点について2つの被験 者群間で比較を行ったところ、AS/HFA 児群は健常児群と比べてすべての下位尺度で得点が有意に高く なっていた。なかでも「コミュニケーション」の領域の下位尺度における違いが顕著であった。
2) 項目反応率
項目ごとの自閉症傾向とされる側への回答率を被験者群間で比較した結果、50 項目中1項目(項目 29)だけが健常児群の方がAS/HFA 児群の反応率を上回っていた。この項目は、成人用でも同様の傾向 を示しており、内容的に検討が必要であると考えられる。また、反応率に逆転は見られないにしても、 両群間で有意な差が認められなかった項目が3項目(30, 34, 49)あった。これらの項目についても、内 容的に再検討が必要である。なお、Baron-Cohen et al (in print) の原版では、2 項目(29,30)で反応 率が逆転していたが、逆転していないものについては、両群間の反応率にどの程度の違いがあったかに ついては報告されていない。
本報告書における分析では、これらの項目はそのまま集計に使用した。
3) 内的一貫性
児童用AQ(日本語版)全体の50 項目での信頼性を健常児のデータで算出した結果、尺度全体で Cronbach のα係数は0.86 であった。以上の結果から、児童用AQ(日本語版)の尺度全体としての信 頼性の高さは十分な水準であることが示された。
4) 臨床群と統制群のカットオフ(識別)ポイント
AQ の目的の一つは、自閉症スペクトラム上での個人差の測定であり、その概念から当然成人用AQ と同様にAS/HFA 児群の得点分布と健常児(統制)群の得点分布が乖離することが予想される。そこで 被験者群別得点分布にもとづいて、AS/HFA 児群を健常児群からもっともよく識別する児童用AQ 上の 得点を検討した結果、20 点が識別点(カットオフ・ポイント)として妥当であると考えられた。すなわ ち、20 点以上にはAS/HFA 児群の8 割強(82.1%)が含まれるのに対し、健常児群ではわずかに7% 弱(6.9%) がそこに含まれるのみであった。したがって、児童用AQ の得点が20 点以上であることが、自 閉症スペクトラム上において病理的水準の自閉症傾向を持つことを意味すると考えられることになる。 これはAS/HFA 児群と健常児群のAQ の得点分布を示した図1からも明らかである。このことは児童用 AQ の結果が診断的な手がかりの1つとなることを示すものである。
5) 児童用AQ上の健常児の自閉症傾向の個人差
成人用AQ は、一般健常者がもつ自閉症傾向の個人差を測定するという目的に対しても一定の妥当性 を持っていたが、児童用AQ(日本語版)による健常児の得点の分布傾向は、平均得点11.5、標準偏差 6.23 であり、成人版での分布状態に比べて若干低得点側に偏った分布を示していた。しかし、低得点側 でも約2SD 近くまでは分布があることから、一般的な心理的個人差を測定する尺度として一定の範囲で 健常児の自閉症傾向の個人差測定に適用することが可能といえよう。得点の分布状態も図1から明らか なように、ほぼ正規分布していることがわかる。この結果は、健常成人のもつ自閉症傾向にも一定の個 人差があるという自閉症スペクトラム仮説の妥当性を支持するものである。
児童用AQチェックシート(日本語版)
回答のしかた
- 次の50項目について、それぞれの内容が、対象児(お子さんなど)に該当するかどうかについて、普段の行動などから判断して「あてはまる(そうである)」から「あてはまらない(そうではない)」までの4段階の選択肢の中で、最も適切な1から4の数字に○をつけてください。
- もし外部からではよくわからない場合には、対象児本人に確認してもかまいません(たとえば「どちらが好きか」ということなど)。
- また、「電話番号を覚えるのが苦手かどうか」「お話(物語)を聞いたときに、登場人物がどのような姿か簡単にイメージできるかどうか」などのような、本人でないとわからない可能性がある項目について、外部からの判断が難しい場合には、本人に尋ねるか、各項目に補足してある( )内の説明を参考にして判断した上で回答してください。
- どうしても判断できない場合には、わからない(?)に○をつけてください。
- 必ず、すべての項目に回答(?も含めて)してください。
注意
児童用AQ(日本語版)の項目の一部または全部について、著者に無断で使用することはご遠慮ください。使用を希望する場合には、必ず事前に、著者に文書等で了解を得てください。なお、使用された場合には、研究目的のために結果のデータ等の情報の提供をお願いすることがありますので、ご了解ください。
1 | あてはまる(そうである) |
---|---|
2 | どちらかというとあてはまる |
3 | どちらかというとあてはまらない |
4 | あてはまらない(そうではない) |
? | わからない(判断できない) |
項目 | 質問 | 1 | 2 | 3 | 4 | ? |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 何かをするときには、一人でするよりも他の人といっしょにすることを好む。 | |||||
2 | 同じことや同じやりかたを、何度もくりかえすことが好きだ。 | |||||
3 | 何かを想像しようとすれば、その映像(イメージ)を簡単に思い浮かべることができる。(目を閉じて自分の学校の教室などをイメージさせ、見えるものを答えさせる。なお、この場合、記憶の確認ではないことに注意する) | |||||
4 | 一つのことに夢中になって、ほかのことがぜんぜん目に入らなくなる(気がつかなくなる)ことがよくある。 | |||||
5 | 他の人が気がつかないような、小さい物音に気がつくことがしばしばある。 | |||||
6 | 車のナンバーや時刻表の数字などといった一連の数字のような特に意味のない情報に注目する(こだわる)ことがよくある。 | |||||
7 | 本人がていねいに話したつもりでも、話し方などが失礼だと周囲の人から言われることがよくある。 | |||||
8 | お話(物語)などを読んでいるとき、登場人物がどのような人か(外見など)について簡単に想像することができる。(すでに登場人物の外見などについて知っている話以外の簡単なストーリーを聴かせて、登場人物の様子について説明を求めて確認する) | |||||
9 | 日付・曜日などについてのこだわりがある。 | |||||
10 | 親しい人が何人もいる場面などで、いろいろな(複数の)人との会話を簡単に続けることができる。 | |||||
11 | 自分がおかれている社会的な状況(その場での自分の立場や状態がすぐにわかる。(状況に応じた行動ができる) | |||||
12 | ほかの人は気がつかないような細部に注意を向けることが多い。 | |||||
13 | パーティーなどよりも、図書館に行く方を好む。 | |||||
14 | 作り話には、すぐに気がつく。 (すぐわかる・だまされない) | |||||
15 | モノよりも人間の方に関心(興味)を持っている。 | |||||
16 | それをすることができないとひどく混乱(あるいは興奮)してしまうくらい強い興味や関心を持っていること(もの)がある。 | |||||
17 | 他の人と、雑談などのような、ちょっとした会話(おしゃべり)を楽しむことができる。 | |||||
18 | 自分が話をしているときには、なかなか他の人に横から口をはさませない。 | |||||
19 | 数字(番号)に対するこだわりがある。 | |||||
20 | 物語りを読んだり、テレビドラマなどを観ているとき、登場人物の意図や考えなどをよく理解できないことがある。(簡単なストーリーを聴かせて、登場人物の意図や考えなどについて理解できるかどうかを確認する) | |||||
21 | 小説などのようなフィクションの本を読むことは、あまり好きではない。 | |||||
22 | 新しい友人を作ることは、苦手である。 | |||||
23 | いつでも、ものごとの中に何らかのパターン(型や決まりなど)のようなものがあることに気づく。(通常は特にパターンのようなものがないような身の回りのものごとについて、何か決まり(規則)のようなものがあると思うか尋ねてみる) | |||||
24 | 博物館に行くよりも、劇場や映画館に行く方が好きだ。 | |||||
25 | 自分のいつもの日課(行動の順序など)が妨害されても、あわてたり混乱するようなことはない。 | |||||
26 | 会話をどのように続けたらいいのか、わからなくなってしまうことがよくある。 | |||||
27 | 誰かと話をしているときに、相手の話の‘言外の意味’を容易に理解することができる。(ほのめかしや皮肉、冗談などを使って、理解できるかどうか確認する) | |||||
28 | ものごとの細かいところよりも、全体像に注意が向くことが多い。 | |||||
29 | 電話番号をおぼえるのは苦手である。(電話番号を3種類程度教え、数時間後にそれを覚えているかどうか確認する) | |||||
30 | 状況(部屋の様子やものの置き場所など)や人間の外見(服装や髪型)などが、いつもとちょっと違っているくらいでは、すぐには気がつかないことが多い。 | |||||
31 | 自分の話を聞いている相手が退屈しているときには、どのように話をすればいいかわかっている。(相手がうんざりしていても、同じ話を続けているようなことがあるかどうかで判断する) | |||||
32 | 同時に2つ以上のことをするのは、容易である。(遊びや勉強などをするときに「何かをしながら」ということがあるかどうかなどで判断する) | |||||
33 | 電話で話をしているとき、自分が話をするタイミングがわからないことがある。(電話での会話が自然に出来るかどうか) | |||||
34 | 自分から進んで(自発的に)何かをすることを楽しんでいる。(指示や模倣などによらない行動がみられるかどうか) | |||||
35 | 冗談がわからないことがよくある。 | |||||
36 | 相手の顔を見るだけで、その人が考えていることや感じていることがわかる。(相手の表情などを読むことができるかどうか) | |||||
37 | 何かをしているときに、じゃまが入っても、すぐにそれまでやっていたことに戻ることができる。(遊んでいるときにじゃまが入って中断されても、じゃまがなくなれば、前の遊びの続きを始めることができる) | |||||
38 | 雑談や、ちょっとしたおしゃべりを人とすることが得意だ。(一方的な話ではなく、会話のやりとりができるかどうか) | |||||
39 | 同じことを何度も繰り返していると、周囲の人によく言われる。(人に言われなくても、実際に同年代の子どもに通常みられる程度以上の繰り返しがあるかどうか) | |||||
40 | 今よりも小さいころ、友達といっしょに「○○ごっこ」(ごっこ遊び)をよくして遊んでいた。(現在でもしている) | |||||
41 | 特定の種類(カテゴリー)のもの(たとえば、車、鳥、植物など)についての情報(カタログや資料など)を集めることが好きだ。 | |||||
42 | 他の人がするのと同じように想像をすることは苦手だ。(他の人と同じような想像や感じ方ができているかどうか) | |||||
43 | 自分がすることは、何でも注意深く計画する傾向がある。 | |||||
44 | 社交的な(人と親しく交わる)場面を楽しんでいる。(人と一緒にいるだけではなく、関わることを楽しんでいるか) | |||||
45 | 他の人の考え(意図など)を理解することは苦手だ。 | |||||
46 | 新しい場面(状況)では不安を感じやすい。(初めての場所や人に対して、常識レベルを超えた不安を示すかどうか) | |||||
47 | 初対面の人と会うことを楽しんでいる。(初対面の人と会うことが好きである) | |||||
48 | 社交的である。 | |||||
49 | 家族や友人などの誕生日をおぼえるのが得意である。 | |||||
50 | 子どもと「ごっこ遊び」をして遊ぶのがとても得意だ。 | |||||
合計点 |
まとめ
本研究では、Baron-Cohen et al. (in print) が作成した、児童を対象とした自閉症傾向の個人差を測定 するための養育者による評定形式の質問紙「AQ (自閉症スペクトラム指数)」(児童用)の日本語版を、 AS/HFA 群と健常児群を対象に実施した結果について報告した。全体的な結果は、原版の報告とほぼ共 通しており、日本語版においても臨床的診断と健常児の自閉症傾向の個人差の測定の双方で児童用AQ (日本語版)が有効な尺度であることが示されている。
特に、AS/HFA 児群は、健常児群に比べてAQ 得点が高く、両群のAQ 得点の分布状況は20 点前後 を目安として二群に分けることができる。このことは、児童用AQ が一定の診断的妥当性・有用性を持 つことを示している。
また健常児群の得点分布は、AS/HFA 群とは明確に区別されるものの、それ自体はほぼ正規分布を示 しており、AQ が健常児の持つ自閉症傾向の個人差を測定していることも示された。 以上のように、児童用 AQ(日本語版)は小中学生程度の年齢のアスペルガー症候群や高機能自閉症 児をスクリーニングするための簡便な診断ツールとして有効であるとともに、健常児の自閉症傾向の個 人差を測定することが可能な尺度である。また心理学的測定尺度としても、内的一貫性などから一定の 信頼性が確認されている。
なお、児童用AQ は、他者評定形式であるため知的障害をもつ被験児にも適用できることから、自閉 性障害のスクリーニングを目的とした使用においても小学生以上であれば適用可能であるが、今後より 年少の対象への適用可能性の拡大が重要な課題となると考えられる。
また、主として養育者による他者評定という形式上、評定を行う者が対象児の行動傾向をどれだけ正 確に把握できているか、またその情報を評定尺度上にいかに正確に記述できるかが重要な前提であり、 この点についての信頼性の向上が必要である。
付記
本研究にご協力いただいた学校法人武蔵野東学園、および同学園の児童生徒の保護者の皆さんに心か ら感謝を申し上げます。
引用文献
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